LHCbの2つのアノマリーが、標準模型を同じ方向へ押し続けている

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LHCbは、同じ種類の「ひび」を繰り返し見つけています。CERNのbクォーク物理実験から出てきた2つの測定結果 — 今春に Physical Review Letters への掲載が決まったものと、先週のCERNセミナーで発表されたもの — はどちらも標準模型と食い違っており、しかも食い違う方向まで一致しています。どちらも発見の基準である5σにはまだ届いていません。それでも、この絵を軽くいなすのが難しくなってきました。

CERN LHCトンネル内部の様子。陽子ビームを曲げる青色の双極子マグネットが並んでいます。
出典: The Conversation

2つの測定が実際に何を語っているか

1つ目の結果は 電弱ペンギン崩壊(electroweak penguin decay) — B中間子がカオン、パイオン、2つのミューオンへと崩壊する稀な過程 — に関するものです。LHCbは2011年から2018年に記録された約 6,500億回のB中間子崩壊 をふるいにかけ、このチャンネルの角度分布と分岐比を測定しました。結果は標準模型予測から 4標準偏差 ずれており、Physical Review Letters への掲載が確定しています。平たく言えば、標準模型が正しいのにこれほどずれたデータが偶然出てくる確率は約 16,000分の1です。同じ加速器で動く姉妹実験のCMSも、昨年同じチャンネルで同じ方向への引っ張りを観測しています。統計的有意性は低かったものの、傾向は一致していました。

2つ目の結果は、5月19日のCERNセミナーでメリーランド大学のEmily Jiangが発表したもので、別のチャンネルを見ています。Bc+ → J/ψ τνBc+ → J/ψ μν の比較です。R(J/ψ) — 重いタウレプトンが終状態に現れる頻度を、軽いミューオンとの比で見た値 — の標準模型予測は 0.2597 ± 0.0027。一方、LHCbのRun 2測定値は 0.51 ± 0.12 (stat) ± 0.08 (syst) で、予測より約1.8σ高い結果でした。これに過去のLHCbとCMSの測定を加えた世界平均は R(J/ψ) = 0.54 ± 0.12 となり、予測より 2.4σ高い 位置にあります。

CMS、LHCb Run 1、LHCb Run 2、そして世界平均のR(J/ψ)測定をまとめたHFLAV作成のサマリープロット。標準模型予測の0.26より高い位置に集まっています。
出典: LHCb Outreach (CERN)

2つを合わせて見ると、面白さが立ち上がる

ペンギン崩壊のずれは、仮想的な量子ループによって生じる過程に現れています。一方のR(J/ψ)は、第3世代のタウレプトンが関わるツリーレベルの崩壊です。両者は別の物理、別の理論的道具立てを使う領域です。それなのに、どちらも 何か が第3世代のクォークとレプトンに対し標準模型より強く結合している、という同じ方向にデータを引っ張っています。

このパターンは、長年指摘されてきたR(D)・R(D*)アノマリーにもすでに見られます。2つを合わせると予測より 3.8σ 高い位置にあるのです。標準模型は、3つの世代のレプトンを質量を除いて完全に同じものとして扱います。もし実データで第3世代だけ違うふるまいをしているのなら、模型は不完全だということになります。

有力な説明候補は、レプトクォーク(leptoquark) — クォークとレプトンを直接結合させる仮想粒子 — と、標準模型の単一ヒッグスを超える 荷電ヒッグスボソン(charged Higgs) です。どちらもデータが示唆する世代依存のずれをきれいに作り出せます。ただし、どちらの粒子もこれまでにいずれの衝突型加速器でも直接生成された実績はありません。

標準模型のWボソンを介した過程と、同じB中間子崩壊を媒介する2つの新物理シナリオ — 荷電ヒッグスとレプトクォーク — を比較したファインマン・ダイアグラム。
出典: LHCb Outreach (CERN)

なぜ重要か

標準模型は、過去50年にわたって「ひび」と呼ばれたすべての兆候を肩をすくめて受け流してきました。前の世代のB物理アノマリーも、データが増えるにつれて静かに弱まっていきました。そして、最も強い反論はまさにその歴史そのものです。4σは5σではないし、R(J/ψ)の2.4σは過去に消えていった効果のレンジのなかに収まる値です。

今回違うのは、これから手に入るデータの量です。LHCbは2018年以降、PRL 論文に使われたサンプルの 3倍を超えるB中間子 をすでに記録しています。さらに2030年代のHL-LHCアップグレード後には、それより 約15倍 多いデータが蓄積されます。データが積み上がれば、ずれは縮んで消えるか、どちらかのチャンネルが5σを超えるか、のどちらかです。もう10年あいまいなまま引きずる、という第三の選択肢はありません。

今後の注目ポイント

次のマイルストーンは、2026–2027年に出てくるLHCbのRun 3全データを用いたB0 → K0 μ+μ− 解析の更新です。中心値がほぼ同じまま統計だけ厚くなれば、その解析単独でも有意性は5σを越えていきます。Belle IIによる独立したR(D)・R(D)の更新も、ほぼ同じ時期に出てきます。両実験で誤差が縮み、中心値が動かなければ、問いは「新しい物理はあるのか」から「それは何なのか」に変わります。


出典

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